急性期治療を中核にした都市型の精神科病院

医療法人聖和錦秀会 阪本病院

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幸せは小さな「ありがとう」から

2011年3月11日の東日本大震災は、日本人の各人が最近まで長く気付かずにいた日本人の素晴らしき特性を再認させた。震災後の各所で用いられる言葉に「絆」がある。この言葉はこれまでにも様々な天災・事故などの後に聞かれていたが、今回の震災ではっきりと各人の意識下に出てきたといえる。その中に家族の絆、地域の絆といった小規模共同体の中での絆が再認されたことが特に大きい。最近の世相としては、家族や地域のコミュニケーションが崩壊したことに視点が向き、社会に起きる状況が何から何までネガティブな面から取り上げられていたといえる。こうした状況にあって震災の勃発によって「絆」という言葉が浮かび上がったのは、その重要性に自らが気付いただけでなく、その「絆」という強みを日本人の特性として持っていたことを再認できたからである。

 

震災後の復興には、インフラの整備が最重要課題で、多くの人員が復興地域に集まってきている。こうした地域で集いあった人が住民と絆を結び、その地域社会における復興にむけて、ポジティブにベクトルが向いていくことが好ましいことは言うまでもない。しかし、最も素晴らしい動きは、復興地域で独自に芽生えている絆意識に対して、復興地域外において共感が生まれてきたことである。

 

震災後日本全体が抑うつ気分に浸る中で復興地域に発した絆からのコミュニケーション活動がその後、徐々に日本全国に広がりつつある。フィードバック現象のように相互における独自の絆意識を向上させてきているのである。復興地域では仮設住宅などで相互コミュニケーション向上を目指して、様々な企画がなされている様子がマスコミにて報道されている。そこには被災の深刻さを超越した相互感情の共感や連帯感が強く溢れ、ひたすらに前向きに生きようという真摯な姿が笑顔として現れている。こうした状況を日々マスコミを通して伝えられると、復興地域外においても、自らの地域においても、地域住民同士の共感・連帯感を求める気持ちが生じるのは必然といえるかもしれない。

 

先日、地下鉄の駅から仕事先までの途において、とても気分の良くなる光景を目にした。そこは最近マンションの乱立する地域で、車が多く走る。普段歩いていて、住民同士が会話している光景はほとんど目にしたことがない。同じマンションでも出入りする人同士がすれ違っても、挨拶もみられない。私もマンション生活の頃は同様な環境にいたので、その状況は何ら不思議もなかった。むしろ、そうしたコミュニケーションの過疎化が当然のように感じられていた。そんな中で「絆」を感じさせる光景を目にすることができたのである。

 

1人の50歳ぐらいの女性が買い物から帰ってきたのか、マンションに入ろうとしていた。その折、青年が急いでマンションから駆け出てきた。急いでいたためか、コートに入っていたティシューの袋が地面に落ちた。女性が「おにいちゃん、ティシューが落ちたわよ」と声をかけると、急いでいた青年は振り向き、一瞬とても面倒くさそうな表情をしたが、女性のほうが拾って笑顔で青年に手渡す仕草をみせると、青年は受け取りに戻った。女性はただ、「はい」と手渡したのだが、青年は「どうもありがとう」と言って、ティシューを受け取った。ちょうど、そこがマンション玄関であり、手動のドアの場所であった。そして、女性が買い物帰りからで袋を片手に持っていたこともあった。青年はティシューを受け取った後、ドアを片手で開けて押さえると、女性に中に入るように仕草した。女性も「ありがとう、おにいちゃん」と言って、中に入っていった。とても急いでいたような青年が見せた思いやりの行為。こうした状況は、一昔前は日常茶飯事であったかもしれない。しかし、マンションに出入りする人同士で挨拶すらない情景が当たり前のようになってきた最近としてみると、とても異なった雰囲気が漂ったのである。さらに、この情景を見ていたのは私だけでない。そのマンションの前を歩いていた何人かの目に自然と入ることになった。私が気分の良くなったのは、彼らにとても素晴らしい笑顔が見られていたことである。青年と女性とのコミュニケーションが何かの共感を感じさせたのか。それこそが「絆」の原点ではないだろうか。

 

人が幸せ感に浸れるのは、その人に利益をもたらすような快感が生じた時に限定されるものではない。日々の小さな感謝の気持ちが自然の笑顔につながり、幸せの気持ちに至るのである。

 

 幸福

 

医局

 

2012.01.18

 

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